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三話 幼蝶は嫌々手を組む1

 

「――春の課題制作は、ペアでの魔導具制作とします」

 もやもやを抱えたまま次の日を迎えたレンは、明くる日の朝一番の授業で、教師のそんな言葉に目を瞬かせた。
 アカデミーでは春と秋に一回ずつ、外部の人間を招いての成果発表会がある。
 上級課程まで進んだ人々にとっては、その時の成果によっては将来に繋がったり、就職先が決まるなど、かなり重要な場になっている。が、通常課程――それも初年である今のレンたちにとっては、親兄弟に成長を見せるというような、初等教育機関での文化祭に似たようなものと捉える方が正しいだろう。噂では秋の頃になれば、クラスごとに、それぞれ生徒たちが自由に考えた出し物をするらしい。まさに文化祭だ。
 話には聞いていたが、春の成果発表会というのは、こんな入学間もないころから準備するのかと少し驚く。クラスメイト達も同じことを感じたのか、教室内が少しざわついた。
 まだアカデミーの生活がはじまり日も浅い。ペア、と言われてもどうしたら、という点への不安も聞こえた。
 だが教師の側もそんなことは承知しているのだろう。壮年の教師がパンと手を叩いて生徒たちのざわめきを沈める。

「皆、色々と考えがあることだろう。だがここは公平を期して――」

 そう言いながら、彼は教壇の上に箱を置いた。中は見えず、上部には丸い穴が空いている。つまるところ――

「くじ引きでペアを決定する」

 高らかに宣言した教師に、生徒の反応は様々だ。組みたい者がいたのか憤慨している人もいれば、逆にほっとした様子を見せる者もいる。
 レンはというと、まあ誰と当たってもそれなりに出来るだろうと、楽観視していた。
 クラスメイトの人数は全部で三十人ほど。もちろん中には喋ったことのない人もいるが、まさか「あいつ」と当たることなんてあるまい――。
 そう思っていたのだが。

 

 レンは箱から取り出した紙片と、目の前に差し出された同じ番号の書かれた紙を見て、思わず顔をしかめた。
番号は「7」。ひっくり返そうがどうしようが、数字は変わらない。
 レンは引き攣った笑顔を、その相手に向けた。

「…………よろしく、ファル」

 ペアの相手――ファルは、不機嫌を隠しもしない仏頂面をしている。当然、「よろしく」は返ってこなかった。

 

 

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