三話 幼蝶は嫌々手を組む4
レンがファイルから取り出した紙は三枚。
その全てを重ねて床に置いた。
「三枚も使うのか……?」
ファルが不思議そうにするのも無理はない。一つの魔法には一つの魔法陣。それが一般的な考えだ。
しかし魔法の専門家を両親に持つレンは、それが必ずしも最適ではないことを知っていた。一つの魔法陣で構成した方が、起動時の負担は少ないのは確かだが、複雑さが増せば増すほど管理や調整が難しくなるという側面もあるからだ。
「ああ。この方が後で調整しやすいんだ。効果範囲とかがまだちょっと甘い部分があって……。――っと、まあ後でいいや。それじゃ行くぞ! 『起動』!!」
レンが叫んだ瞬間、魔法陣がぱあっと光る。そして、火花が吹き出すような光が上がった。
「うわっ……」
ファルが顔を覆うのを見て、レンはほんの少ししてやったりとイタズラが成功した時のように笑う。とはいえ、あまり怯えさせるのも本意ではなかったため、すぐに魔法の種明かしをはじめた。
「そんなにびっくりしなくても大丈夫だって。幻術だからさ」
「……驚いてない」
「またまた」
レンはくすくす笑いながら、自身の魔法の出来を確認する。見た目は派手だが全て幻のため危険はない。
しばらく魔法陣の付近から火花が吹き出したあと、次は花火のようなものが上がる予定だ。周囲が明るい昼の今はあまり見栄えしないが、当日はそこも問題ないだろう。こういった光がメインの魔導具を発表する際には、周囲を暗くしてくれると、教員に確認済みだ。
「ほら~、いいだろー? バーンとキラキラ!」
そう言っている間に、吹き上がっていた火花が収まってくる。この火が落ち着いたら花火が上がる。それをわくわくと待ち望んでいると、バチッと何かの弾けるような音がした。
「……『バチッ』?」
設定した覚えのない音に、レンは首を傾げる。だが確認をする前に、もう一度同じような音が、今度は連続で鳴りはじめる。そして、火花が飛んできた。
「あちっ! ……え、熱い?」
幻術の魔法に当然熱さなどないはずだ。だが、レンの手に飛んだ火花は確かに熱かった。
レンはサアっと血の気が引くのを感じる。
火花が熱い。つまり、あの炎は本物ということだ。どこで間違えたのか。何故幻じゃない?
混乱するが、今はそんなことより――
「ファル! これまずいかも、逃げろ!」
「は?」
「早く!!」
後ろでバチバチと嫌な音がする。そして、そのままカッと強い光が放たれて、酷い音と共に爆発した。
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