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先に巣立った彼は咲わない娘に魅せられて1

 

「ルーク、お前に一つ課題を与える」

 静かな部屋に、厳かな男の声が落ちた。
 ついに来たかとルークはごくりと唾を飲み込んで、男――父の言葉を待つ。

「後継者指名の最終試験だ。この商会における、次の売れ筋商品を見つけてきなさい」
「はい」

 ルーク――蝶の国で知らぬものはいないオドラー商会唯一の跡取り息子は、神妙な顔で父の言葉に頷いた。

 

「――とはいえだよ。そうないわけ、次のヒット商品なんて」

 ルークは爪楊枝を噛みながら、酒の入ったグラスの氷をくるくるとかき混ぜつつぼやいた。

「はあ……、大変そうだな……?」

 対面にいるのは、アカデミー時代からの友人二人。気のない返事をしたのは、少し長い金茶の髪を後ろで一つにまとめた青年レンだ。
 もう一人の、短い黒髪をした大人しそうな青年ファルは、怪訝な顔をする。

「……僕としては、君が大商会の跡取りっていうのが、未だに信じらんないんだけど」
「確かに!」
「え、ひどっ……」

 わざとらしく傷付いたような表情をつくるルークに、二人がケラケラと笑った。それを見て、ルークも堪えきれずにその笑いに追従する。
 何も問題は解決していないが、懐かしい空気に強ばりが解れていく気がした。
 アカデミーの通常課程を卒業してから三年。
 上流課程へ進んだ彼らとは、こうして会える機会は当然減ってしまい、急に昔を懐かしく思える。

「――あ」

 その時ふと記憶が浮かび上がり、ルークは声を上げていた。
 二人が不思議そうな顔でこちらを見る。

「どうかしたか?」
「何とかなりそうかも」

 レンの問いに、ルークはニヤリと笑った。

 

 

***

 

 

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