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BL小説-未羽化(研究者×蝶の民)-未羽化_一章

十話 幼蝶は友情を知る2

「――だーかーら! あそこの回路を副次回路にすれば、もうちょい出力上がるだろ!?」「何言ってる。あっちをこの線に繋げた方が効率的だろ」「いやいやいや! 絶対、こっちだって!!」「いーや、こっちだ」「…………お前ら、何やってんの」 朝、教室に到着した…

十話 幼蝶は友情を知る1

ニクスとの一件から丸一日が経ち、再び夜が訪れていた。 「あいつ、今日来なかったな」 レンはアカデミーの端にある丘の上から、下方にある広場を見下ろし、ぽつりと言った。 隣に同じように座っていたファルは、表情を変えないまま視線だけをこちらに向ける…

幕間 4

もう全てが終わってしまった。 怒りを隠しきれぬような父を見た時、そう思った。 兄や姉のように家の自慢になりたかった。そのためには手段など選べなかった。 だって、僕は何の才も無い凡人だから。 真っ当な手段で、選ばれるはずもないから。 僕は―― 教師…

九話 幼蝶は美しい景色と共に3

発表が終わり、ファルは同級生たちと話しているレンの傍からそっと姿を消した。 一人になり、アカデミーの敷地をあてもなく歩く。だが、必ずどこかで会えると確信していた。 そして、人気のない校舎裏。辺りには誰もいない場所に、探していた人物がいた。 「…

九話 幼蝶は美しい景色と共に2

魔導具の発表は、昼の部と夜の部に別れている。 初日の今日は主に通常過程の生徒がメインとなる舞台。だが二年時になれば魔導具以外で成果を発表する者もおり、もう殆どは発表を終え緩んだ空気を醸し出している。 夜の今は「夜」が映える魔導具を作った生徒…

九話 幼蝶は美しい景色と共に1

「……本当に上手くいくのか?」 魔導具の破損から一晩。 ファルに小声で問いかけられ、レンは目を瞬かせた。 「だーいじょぶだって!」 ニッと笑って彼の背中をぽんと叩く。 昨夜から今朝方にかけて、二人は大忙しだった。 魔導具の破損具合はかなり酷いもの…

幕間 3

「見ましたよ。さすがは――のご子息、第一学年からあの出来とは」「いいえ! ペアを組んだ相手が良かったというのが大きいですよ」 その通り。やっとこれで、僕を認めてもらえる。 口に出す言葉とは全く逆の本心を押し隠し、心の中でほくそ笑む。 成果発表当…

八話 幼蝶は終わりを見る5

一瞬、ファルが泣いているのかと思った。 「――っ、一体何が……」 視線を落とす彼の目線の先を見て、レンは我に返って訊ねる。そこには、酷く損傷した魔導具が落ちていて、ファルがそれにショックを受けているのは明らかだった。 「……ごめ…、僕が……」 レンは俯…

八話 幼蝶は終わりを見る4

レンが食堂を出た少し前。 ニクスの後を追ったファルは、彼に気付かれないようにと暗い廊下に息を潜めていた。 手洗いに、と言っていたが、そこはもうとっくに通り過ぎている。 ニクスは迷いなくどんどん進んでおり、何か目的があるのは明らかだ。 何か、嫌…

八話 幼蝶は終わりを見る3

「……遅いな」 ルークの言葉に、レンはグラスを持つ手を止めた。 そして、そのグラスをテーブルへ雑に置くと、頭を抱えた。 「ああ、もう! 気にしないようにしてたのに!!」「す、すまん……」 そう。もうファルとニクスが消えてから三十分ほど。トイレにして…

八話 幼蝶は終わりを見る2

「それじゃあ、お互いの課題完成を祝して――」「「「「かんぱーい」」」」 レンとファル、それからルークとニクスの四人は、課題を提出した後、打ち上げと称して寮の食堂の一角でジュースの入ったグラスをそれぞれ傾けた。 「いやあ、お前らのところ一時はど…

八話 幼蝶は終わりを見る1

「よぉし、完成!」 レンは魔導具についている最後のネジを締めて、うーんと伸びをした。 「いやー、結構いい感じじゃねえかな?」 ぱっと後ろを向くと、自分の担当箇所が終わり、先に片付けをはじめていたファルが手を止める。 「ああ、想像以上に」 ファル…

幕間 2

「いやー、酷い目にあったな……」 苦笑しながら斜面を這い上がってきたのは、地面を転がり落ちた同級生の一人。 「まったく……。気をつけろよ、二人とも」 人を呼びに走った彼は、呆れた顔で手を差し出す。 「助かったよ、ルーク」 もう一人の落下した彼も這い…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ4

「っ、てぇ……」 斜面をゴロゴロと転がり落ち、身体中が痛い。 レンは起き上がりつつ手足の様子を確かめ、幸いにも骨折などはしていないらしいことを確かめる。少し最初に捻った足に痛みはあるようだが、大怪我ではない。 「そうだ、ファルは!?」 慌てて辺…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ3

「んー……。やっぱりもっと奥まで行かなきゃダメだったかなぁ……」 夕刻になり、鞄に詰め込んだ魔石たちを見てレンは肩を落とした。 どれも悪くはないのだが、どうもピンとこない。 それはファルも同じだったのか、同じく鞄を覗き込んで、なんともいえない表情…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ2

「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」 ルークはよいしょ、と言いながらレンたちの傍に膝をついた。 「あー……、まあ、色々あって?」 な、とレンがファルの方を向くと、ファルも若干気まずげな顔をしてこくりと頷く。 「ふぅん? 前見た時は随分な別れ方し…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ1

「なあ、レン。これはどうだ?」 レンはファルが見せてきた魔石を受け取り、首を捻る。 「あー……、色は良いんだけどなぁ、ちょっと…ちっちゃくね?」「やっぱりそう思うか……」 しょんぼりするファルに、レンは慌てて言葉を付け加える。 「あ、でも一応持って…

幕間 1

――お兄様はアカデミーの通常課程を主席で終えられたのですって。将来はきっと、国の中枢でご活躍になるのでしょうね。 はい、僕も兄を尊敬しています。 ――魔法省の長官に最年少で就任した才女、って君の姉君らしいね。どんなお人なんだい? 姉は素晴らしい才…

六話 幼蝶は過去を語る4

「――まてまてまて! ちょっと待て、僕はそういうつもりでこの話したんじゃないぞ!?」 立ち去ろうと腰を上げかけていたレンを、慌てたファルが肩を掴んで制止してきた。 こんなにも慌てた様子の彼は初めて見る。 レンはぽかんとして、動きを止めた。 「で、…

六話 幼蝶は過去を語る3

「――その顔から察するに、もう分かってるんだと思うけど」 しばらく無言で歩いた後、ファルがぽつりと言った。 レンは彼にそれ以上を彼に言わせはせず、先んじて頷く。 「ああ。あそこは……他国民によって、研究の犠牲となった蝶の民たちの記念碑、だろ」 世…

六話 幼蝶は過去を語る2

明け方にレンがアカデミーへと侵入した経路を、今度は二人で内側から越える。 寮の部屋を出た後のファルはずっと無口で、レンはひたすら彼の後をついて歩いていた。 途中で花を買い、彼はそのまま王都の中心街を外れていく。 この先にあるのは――、と思い出し…

六話 幼蝶は過去を語る1

「ファル、あのさ……」「うるさい、だまれ」「まだ何も言ってないし」 さっきからずっとこんな様子のファルに、レンは肩を竦めた。 いつもの冷たい言葉も、真っ赤な顔を両手で隠した状態では、さほど険を感じないから不思議だ。 レンは、起きてからというもの…

五話 幼蝶の心は彼方に5

「ファル……!」 眠りながら泣くファルを見て、レンは思わず声をかけた。 上掛けをぎゅうっと握る手に、己の手を重ねる。 「ファル、起きろ!」 何度か声をかけていると、ようやく眠りから覚めることが出来たのか、彼がうっすら目を開ける。 「…………レ、ン?」…

五話 幼蝶の心は彼方に4

「……よいせっ」 夜も明け切らぬ頃。 こっそりとアカデミーに戻ったレンは、敷地の裏手に回り込み、塀が低くなっている場所からどうにか帰還に成功した。 辺りに人がいないのを確認しつつ寮に戻り、抜き足差し足で自室へと向かう。 「よし!」 誰にもバレずに…

五話 幼蝶の心は彼方に3

「……ふぅ」 ラテロが帰ったあと、レンは自室に一人でぼんやりしていた。 飲んだ茶の効能か、身体がぽかぽかとして眠る気にならない。 「……そうだ」 しばらく眠れそうにない。そう思ったレンは、ふと幼き日の事を思い出した。今日のように眠れなかった日に、…

五話 幼蝶の心は彼方に2

家に入ると、懐かしい実家の匂いがした。 ラテロに無言のまま腕を引かれ、キッチンの方へ連れて行かれる。彼はダイニングテーブルにレンを座らせると、ヤカンに水道水を入れて火にかけた。 それを沸かしている間に、持参していた鞄から茶葉の缶と何かの粉末…

五話 幼蝶の心は彼方に1

「……ラテロ兄さん」 のろのろと顔を上げた先にいたのは、家の隣に住む――レンが「羽化」に感銘を受けるきっかけとなった男であった。 かつては「おにいちゃん」と呼んでいた青年も今や三十代。おにいさんと言える歳なのかは年々わからなくなってきているが、…

四話 幼蝶はひらりと飛んでゆく3

ずかずかと当て所なく歩き回ったレンは、気が付くと王都の商業地区にいた。 ファルから今は少しでも離れたい。その一心で歩いていたが、街は夕暮れに染まっていて、その薄暗さがより一層気分を滅入らせる。 アカデミーから出て来てはみたものの、もう幾許も…

四話 幼蝶はひらりと飛んでゆく2

「だーかーらー! ほら、こう、光がバババーってなったら、カッコいいだろ!?」「カッコよさで何か変わるのか?」「変わるだろ! ほら……、その、……カッコいい!!」「……」 呆れ果てたような視線を向けてくるファルに、レンはぐっと押し黙った。 件の爆発事…

四話 幼蝶はひらりと飛んでゆく1

「ごめん!!」 レンは医務室のベッドの上で、ファルに頭を下げていた。 正座に頭はシーツをこすり平身低頭――、要するに土下座である。 頬に湿布、頭に包帯、身体の所々にも傷を作ったファルは、そんなレンに大きな溜息をついた。 「もういい。事故だろ」 レ…