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八話 幼蝶は終わりを見る5

 

 一瞬、ファルが泣いているのかと思った。

「――っ、一体何が……」

 視線を落とす彼の目線の先を見て、レンは我に返って訊ねる。そこには、酷く損傷した魔導具が落ちていて、ファルがそれにショックを受けているのは明らかだった。

「……ごめ…、僕が……」

 レンは俯く彼の肩に手を乗せて、首を横に振った。
 はじめは、彼がうっかり落としてしまったのかと思ったレンだったが、よくよくその床に落ちたそれを見ればどうやら違うらしいと勘づく。
 これは、明らかに誰かが、明確な害意をもって壊されたものだ。
 ただ重力に従って落ちてしまっただけなら、こんな魔石まで砕けるような、酷い壊れ方はしない。

「ファル」

 手を置いていた肩がぴくりと震えた。
 顔を覗き込んでみれば、酷い顔色をしていた。

「大丈夫」

 だからレンは笑った。

「今から直せばなんとかなるって。だからファルも落ち込んでないで手伝ってくれよ」
「レン……」
「――こんな手を使った奴に、負けたくないだろ」

 ファルがハッとした表情で顔を上げた。

「…………僕を疑わないのか」

 気まずい顔でそう問い返してきたファルに、レンは一瞬きょとんとした。

「まさか」

 ファルを追ってきたレンは何かの割れる音――おそらく魔導具が壊された時の音を聞いてからここまで来た。校舎の外からここまで上がってくる間、ファルがずっとここで呆然としていたというのは、些か不自然に思う。
 だが何よりも――

「ファルはそんなことをしないよ」

 レンはニッと笑う。
 根拠は無い。だが、そんな確信がある。

「…………バカだな」

 虚を突かれたような顔をしたファルは、困ったように笑った。

「はは、ひでぇの」

 レンはけらけらとファルと二人笑い合うと、魔導具に手を伸ばしたのだった。

 

 

***

 

 

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