九話 幼蝶は美しい景色と共に1
「……本当に上手くいくのか?」
魔導具の破損から一晩。
ファルに小声で問いかけられ、レンは目を瞬かせた。
「だーいじょぶだって!」
ニッと笑って彼の背中をぽんと叩く。
昨夜から今朝方にかけて、二人は大忙しだった。
魔導具の破損具合はかなり酷いもので、元通りに直すという方法はとれず、教師への説明や多少の材料調達などもせざるを得なかったからだ。
それでも、できる限りのことはした。
魔導具の中央に据えられていた大きな魔石は無くなったが、まるではじめからそうであったかのように装飾を付け加えた。見た目は何の問題もない。
あとは、期待通りに動いてくれるのを祈るだけ。
時間が時間だったこともあり、今回は起動のテストをできていない。もっとも、施した魔法陣は二人がかりで念入りにチェックしたため、暴発ということはないはずだ。
しかし、それでも本当は、レン自身不安がないわけではなかった。けれど――
「ほらファル、もうすぐだ」
「あ、ああ……」
二人なら大丈夫。
何の根拠もなく、そう思えるのだ。
それに、とレンはちらりと斜め後ろにいるルーク――その隣にいたニクスを見た。
「やられっぱなしは、癪だろ」
レンは昨夜何があったかをもう知っている。教師陣も、彼らのうちの一人が得意とする魔法によって何が起こっていたかを確認している。
証拠は揃っている。
それでも今、彼を糾弾しないのは、レンがこの会が終わるまで待ってほしいと頼んだからだ。
「見返してやろうぜ!」
レンがファルに笑みを向けると、ファルは一瞬きょとんとした後、肩を竦める。
「――ああ」
少し呆れ顔のファルと拳を突き合わせて、魔導具披露の現場へ向かう。
時刻は夜。レンたちの魔導具が最も映える時間が訪れていた。
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