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九話 幼蝶は美しい景色と共に2

 

 魔導具の発表は、昼の部と夜の部に別れている。
 初日の今日は主に通常過程の生徒がメインとなる舞台。だが二年時になれば魔導具以外で成果を発表する者もおり、もう殆どは発表を終え緩んだ空気を醸し出している。
 夜の今は「夜」が映える魔導具を作った生徒のための時間。レンたちをはじめとした八組がその発表を控えていた。
 八組中四組が終わり、いよいよレンとファルの順が回ってくる。

「ファル」

 魔導具を抱える彼の手が震えているのに、レンは気付く。だが、それには触れずにニッと笑う。

「行こう」

 ファルは深呼吸をして表情を引き締めると、こくりと頷き返した。
 発表順が回ってきたことを知らせる声に従って舞台へと上がる。観客はまばらで――、「彼」はいない。
 昼の部に出た同級生たちの中でも、「彼」の魔導具は出来が良かったと評判が聞こえていた。勝利を確信しているのか、見る価値もないと思っているのか。
 レンはぎゅっと拳を握る。
 そして、ファルと目配せしあう。

「――この魔導具については、まず見ていただいてからご説明したいと思います」

 舞台上に置かれた机の上にファルが魔導具を置く。レンはそれに近付いてそのスイッチを、二人で押した。
 舞台上の照明が手筈通りに落とされ、辺りが暗くなる。
 一瞬の闇。そして――

「――……星だ」

 誰が言ったのだろう。その言葉通りに、そこには一面の星空があった。
 魔導具を中心にキラキラと星が降っている。頭上から降るそれを、誰もが掴もうとするかのように自然と手を広げていた。
 夜に相応しい、美しい光が降ってくる。
 その場の誰も声を発しないまま、その星が降る様を見つめていた。
 星が雪のように降る。返した手のひらにふわりと着地して、消えた。
 その瞬間に、何人かが息を飲んだ。

「……君」

 審査員の教師の一人が、黙ったまま立っていたレンとファルを驚きの表情で見ていた。

「はい」
「これは、治癒魔法か?」
「――はい」

 気付いてもらえた、と安堵して表情が緩む。

「これは、幻影の光に治癒魔法を付与したものです」

 魔導具が壊される前、レンとファルはお互いのやりたいことを極単純に組み合わせた魔導具を作っていた。
 つまり、幻の火花が吹き上がると共に、周囲に治癒魔法をかけるというものだった。それを実現させるにはある程度の大きさの魔石が必要となっていたのだ。
 しかし、要となる魔石は砕かれてしまった。
 そうなると、治癒魔法の範囲を狭めるか、火花をなくすか。という選択を迫られたのだ。
 しかし、レンはどちらも諦められなかった。
 時間がない中で、追い詰められたのが奇跡を起こしたのだろう。その二つの魔法をどうにか組み合わせられないか。その答えがこれだった。
 光が触れた時、治癒魔法がその触れた部分に発動するようにしたのだ。

「……なるほど、こういう手があるのだな」
「効果は小さいけれど、いくつも降ってくるから小さな怪我はすぐに治ってしまいますね」
「見た目が美しく、なおかつ効果範囲が分かるのもいいな」

 教師たちが口々にそう言って、うんうんと頷いている。

「……ファル」

 レンはファルにこそっと声をかける。

「ん?」
「やったな」

 観客もみな頭上を見上げ、星の雨に惹かれるようにぱらぱらと人が集まってきている。

「レンと僕が力を合わせたんだ。当然だろ」
「……はは、確かにな!」

 直前まで手が震えていたくせに、と言うのは後にしてやろうと、レンは笑った。

 

 

***

 

 

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