先に巣立った彼は咲わない娘に魅せられて3
ルークは町の商店街へと足を運んでいた。
いくつか店を覗きながら、画家の噂を訪ねて歩く。だが、今ひとつ有力な話に行き当たらない。
海を描く画家、という存在は知っている人が多かったが、どこに住んでいるかという知りたい情報には辿り着けない。
どうするかな……。
思考を巡らせていたルークは、ふと鮮やかな花に足を止めた。
「へぇ、きれいに咲いてるな……」
所狭しと並べられた花々が、この店が花屋であると教えてくれていた。
真っ赤な花の傍に膝をついて、その花弁に触れる。
「……ふぅん」
「いらっしゃいませ」
並べられた品々を見ていると傍らから声をかけられる。振り仰ぐと、そこには栗色の髪を肩口で切りそろえた、輝くようなピンク色の瞳が印象的な娘が立っていた。
「何かお求めですか」
「うーん……そうだな。実は探し人をしてるんだ」
ルークは立ち上がり店内へと入る。様々な種類の花を検分して、後ろをついてきていた少女の後ろに咲く、小さなひまわりに目を留めた。
「海を描く画家を探してて……」
「……え」
彼女を挟むような形で、ひまわりに手を伸ばす。少し警戒するような声になったのは、ルークが近付き過ぎたからか――
素知らぬ顔で彼女に背を向けて、店のカウンターにひまわりの代金を置く。
「ねぇ、何か知ってる?」
ルークが少女の方に振り返ると、彼女は顔を強張らせて怪しむような目付きをしていた。
「何故、探してるんです」
「少し話を聞きたくて。それとも……、知ってるのは画家じゃなくて、君…なのかな?」
ルークはにこりと笑って、彼女の様子を探る。
「――画家が掌中の珠にしている、詩家について」
彼女が息を飲む。
やはり何か知っているらしい。
ルークはその「何か」を、とっとと聞き出してしまおうと、彼女の方へ一歩距離を詰めた。
その時、
「ルフィアちゃん、大丈夫!?」
突然割って入った声に、ルークは目を瞬かせる。そうしている間に、彼女は金縛りが解けたように身を翻して声の主の方へ駆けていった。
「お
店員の娘――ルフィアが、ハッとしたように口を両手で塞ぐ。
その仕草で、彼女が駆け寄っていった人物が探し人なのだと悟る。だが、それよりその人物の姿に、ルークは目を丸くした。
「え……、お前、まさかニクス……?」
「…………、え゛、まさか」
しばし不思議そうに首を傾げていた彼も、こちらに気付いたのか頭を抑えた。
「……………………ルーク」
嫌そうな顔に思わず笑う。
「よう、久し振りだな」
手を軽く上げてみれば、ニクスは大きな溜息をついた。
「え……、お知り合いなの、お義兄さん?」
声もないニクスに代わり、ルークがその問いに応える。
「そうみたいだね。以後お見知りおきを、お嬢さん?」
ルークは胸に手を当てて大仰に礼をしたあと、買ったばかりのひまわりを彼女に贈った。
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