先に巣立った彼は咲わない娘に魅せられて4
「……で、あっさり振られたんですか」
「そー。なぐさめて、ルフィアちゃん」
そんな事を言いながらルークが上目遣いでルフィアを見上げると、彼女は胡乱な目つきでこちらを見下ろしていた。
「やだ、傷付く……」
「……はいはい」
肩を竦めたルフィアは、ブーケ作りの作業に戻る。
それをなんとなく見物しながら、ルークは先程のニクス――正確には彼のパートナーだという画家の家での一幕を思い出す。
こちらとしては出来うる限り誠実に、ニクスの詩家ニコラスとの契約について話したつもりだったのだが――
「君の家の番犬は手強そうだね」
「兄さんのことですか?」
ルークが頷くと、彼女は「あー……」となんとも言えない声を上げて、すこし同情するような視線を向けてきた。
「兄さんはニクスさんのことを、本当に……大切に思っていますから」
「みたいだね」
どうやらニコラスを落とすには彼の守護者から落とす必要がありそうだった。
ルークはどうしたものかと頭を悩ませつつ、ルフィアの手の中でリボンに装飾されていくブーケを見つめた。
「――この店は、季節関係なく花が咲いているね」
カウンターの傍に置かれていたハーデンベルギアの紫色をした小さな花に触れる。ルフィアがブーケに使っている花の一つだ。
「店長が……『この町では夏くらいしか売れないんだから』って、花瓶が全て魔導具なんですよ」
「ああ、それで」
要するに、花が枯れづらい……もしかすると、成長を止めるようや高度な魔術式が組み込まれている可能性もある。
自身の所属する商会をはじめ、流通に関わる業者ではそういった魔導具を使っているところもあるが、一介の花屋では珍しい。
「こだわりなんだね」
「変わった人です」
ルークが手に取っていたハーデンベルギアが入った花瓶も、白磁のような器に金の装飾が繊細に施されている。他の花瓶も、小さくカットされたガラスが貼り付けられて模様を作っていたり、淡い色の絵が描かれていたり、とそれぞれ花を邪魔しないような装飾がなされていた。
「……花を贈ったら、君のお兄さんは喜ぶかな?」
ルフィアはブーケのリボンをキュッと結び、その端に鋏を入れてから、やれやれとでも言うように肩を竦めた。
「兄さんは海と、それからニクスさん、それ以外への興味が極端に薄いんです。だから別の方法を考えた方がいいですよ」
「そっか……」
ルークはカウンターに落ちていたハーデンベルギアの花が無数についた小さな枝を摘み上げた。
「じゃあ、ルフィアちゃんは喜んでくれるかな?」
持ち上げたハーデンベルギアを、ルフィアの耳元に差し込む。
しばらく驚きに目を瞬かせていた彼女だったが、ハッとしたようにルークを少し赤らんだ顔で睨みつけた。
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