二話 幼蝶は人が嫌い2
学園生活がはじまり、はじめは緊張していたレンだったが、クラスメイト達ともあっという間に打ち解けていた。
だが、アカデミーに到着した初日に、気まずい初対面となった同室者ファルだけは別だ。
というより、そもそも彼はレンだけではなく、誰とも必要最低限の会話以外をする姿を見たことがなかった。
そんなファルをどうしても放っておくことができず、今朝も話しかけてはみたが完全無視されている。今のところ全敗中だ。
「――お前はいいよなぁ」
授業と授業の間にある小休憩の時間。レンは隣に座る友人ルークに、ぶすりとした顔でそう言った。
「はぁ? 何がだよ」
怪訝な顔で振り返った彼は、レンが拗ねているのを見て肩を竦めた。
「だってさぁ、さっきのお前の同室の奴だろ?」
「そうだけど……、なんだよ」
ルークとその同室者である少年は、ついさっきまで仲良く放課後に出かける予定を立てていたのだ。
「べっつにぃ! 外出の約束なんて、仲いいなって思っただけだよ!」
「羨ましいなら自分もすりゃいいだろ」
事も無げに言うルークに、レンはむっとする。
そんなこと出来るならしてるのだ。
だがこちらは、その同室者から無視され続けている。理由もわからず。だから、レンは羨ましさをかき消すように、わざと憎まれ口をたたいた。
「別に羨ましくなんてないから! それに一緒に出かけたくなんかないね、あんな本ばっか読んでる根暗――」
「あ、おい……」
ルークの声と、別の方向から感じた冷えた視線にハッと口を噤む。
「…………、」
しまった、と思った時にはもう遅い。その冷たい視線の先には、いつもの倍は鋭い眼差しでこちらを睨むファルがいた。
何か文句を言われるだろうか。
身構えるレンだったが、予想に反してファルはふいっと視線を外す。そして、何事もなかったかのように自分の席についた。
聞こえなかった、わけではないだろう。だが、文句を言うほどの価値もないと思われたような気がした。
「……おい、レン。謝ったほうが良くないか?」
「…………やだ」
理性ではルークの言うとおりにしておくべきなのは分かっていた。だが、どうしても素直に頷き難い。
「『やだ』って、お前な……」
呆れたようなルークの声を尻目に、レンはギッとファルを睨むような視線で見つめる。
彼の視界に入っていない。存在すら認知されていない。それがどうしてだか、我慢ならないほど腹立たしかった。
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