五話 幼蝶の心は彼方に4
「……よいせっ」
夜も明け切らぬ頃。
こっそりとアカデミーに戻ったレンは、敷地の裏手に回り込み、塀が低くなっている場所からどうにか帰還に成功した。
辺りに人がいないのを確認しつつ寮に戻り、抜き足差し足で自室へと向かう。
「よし!」
誰にもバレずに扉の前まで辿り着いたレンは、ひっそりとガッツポーズをする。それから、ふと思い出して制服のポケットを探った。
取り出したのは自作の小さな魔導具だ。乳白色の魔石とその周囲に少し装飾を施した、一見するとブローチにも見えるそれを見て、レンはにんまりと笑った。
今朝起きてから超特急で作ったものにしては、なかなか良い出来だと自画自賛しつつ、裏側に刻まれた魔法陣をもう一度点検する。
「……間違いはないな。まあ、今回はテスト起動したから大丈夫なはずだけど」
念には念を、だ。もし万が一にもまた爆発などと言うことになったら、目も当てられない。
「これ見たら何て言うかな」
魔導具を見たファルはどんな反応をするだろうか。
昨日の詫びにと、自分なりに課題の魔導具について考えた結果が詰まったそれを握りしめて、レンは部屋の扉を開けた。
まだあまりにも早い時間のため、ファルは寝ているだろう。起こさないよう、慎重に中へ入る。
「――……めて、」
「!?」
突然聞こえた声に、レンは飛び上がった。どうにか悲鳴は飲み込むが、心臓は早鐘を打っている。
「フ、ファル……?」
声が彼のものだった。もしや起きているのかと思い、小声で名を呼んでみる。
だが返答はない。
聞き間違いか……?
レンはそろりとファルのベッドの方へと近寄る。その時――
「……やめて、おねがい――」
再びファルの声が聞こえた。
彼のベッドを除きこんだレンは息を飲む。
「いかないで、ひとりに……しないで……」
ファルは眠っている。
だが、その表情は苦悶に歪み、眦からは涙が零れ落ちていた。
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