五話 幼蝶の心は彼方に5
「ファル……!」
眠りながら泣くファルを見て、レンは思わず声をかけた。
上掛けをぎゅうっと握る手に、己の手を重ねる。
「ファル、起きろ!」
何度か声をかけていると、ようやく眠りから覚めることが出来たのか、彼がうっすら目を開ける。
「…………レ、ン?」
「ああ……、起こしてごめん。でも、魘されてたから……」
まだ覚醒しきっていないのか、ファルはどこかぼんやりとしている。
「よる、いなかった……。どこへ……?」
微かに責めるような響きを覚えて、不思議に思いながらも問いに答える。
「その、家に帰ってた。今戻ったとこ」
「……なんで」
レンは少し返答に詰まった。その問いはどちらに対してなのだろう。「家に帰っていたこと」へなのか、それとも「戻ってきたこと」へなのか。
逡巡していると、ファルは再び目を閉じ、目尻に溜まっていた涙が零れ落ちた。それを見てレンは慌てるが、答えを返す前に、ファルがぽそりとこぼした。
「――ひとりは、……夜に独りは、怖い」
「ファル……」
初めて、彼が弱々しく見えた。
何か言わねば。そう思うが、レンの中で言葉が固まる前に、ファルは再びすやすやと寝息をたてはじめる。
「あ」
それに気付いて気が抜けた。
「……でもよかった。もう苦しそうじゃないし」
レンは空いている手で彼の前髪を払い除けて、その表情を確認する。
穏やかな顔だ。
「俺ももう一眠りしようかな」
レンは少し疲れたな、とあくびをしつつ、自分のベッドへ目をやった。だが――
「…………まあ。そう、動くのめんどいし」
何故だがファルの手を離す気にはなれなかった。
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