七話 幼蝶は希望を掬い上げ3
「んー……。やっぱりもっと奥まで行かなきゃダメだったかなぁ……」
夕刻になり、鞄に詰め込んだ魔石たちを見てレンは肩を落とした。
どれも悪くはないのだが、どうもピンとこない。
それはファルも同じだったのか、同じく鞄を覗き込んで、なんともいえない表情をしている。
魔導具の肝とも言える魔石だ。これ、というものがあればよかったのだが、純度の高いものはサイズが小ぶりだったり、満足のいく大きさのものは魔法の通りが悪かったりと、どれも一長一短だった。
「いや、タダで使わせてもらえるんだから、こんなもんだろ。しかも掘ったのは素人のオレらだし」
飄々とそう言うのはルークだ。
この鉱山はアカデミー所有のもののため、課題などの学業に使用する場合においては自由に使うことができる。実際の市場に出回れば、今レンが首を捻っているものでさえ、それなりのお値段となる。
だから、使わせてもらえるだけありがたい、というのは確かなのだが――
「でもさぁ、せっかくだし良いの使いたいじゃん。そういうルークたちは、どんなの取れたんだよ」
「ん? ああ、こんな感じ」
そう言ってルークがつまみ上げたのは、親指ほどの長さの楕円形をした魔石だった。少々くすみんだ緑色をしている。
「へぇ、使いやすそうな大きさだな。でもまあ、品質はやっぱりそんなもんか」
大して変わらないなと肩を竦めると、ルークも苦笑する。
「そう言うなよ。これでもニクスが苦労して探してくれたんだ。な?」
ルークが自身の少し後ろを振り返ると、ニクスはぎこちなく笑った。
「そうでもないよ。ルークも頑張ってたじゃないか」
「はは。結果は伴わなかったけど」
口ぶりから察するに、彼らは魔導具に使う魔石として、先程のものに決めたらしい。
これだというものに出会えたのを多少羨ましく思いつつ、レンは絞りきれなかった候補のいくつかが収まった鞄を撫でた。
「――そろそろ帰るか!」
話している間にも、日は傾きつつある。早く鉱山を出なければ、寮に帰るのが夜になってしまう。
レンの声に皆が頷いて歩き出す。
鉱山は広い。
そのため、少々急な斜面を進まねばならない。しかし一度通った道だ。レンはファルと言葉を交わしつつ、意気揚々と歩く。
だがその時、カツンと小石が転がる音がした。そして――
「っと、――うわっ!?」
足を踏み出した場所に運悪く石があったらしい。足を捻ってバランスを崩したレンは、左側に倒れそうになって手をつこうとする。
だが――、そこに地面がない。
「っやば」
そこは急斜面になっていた。咄嗟に受け身をとろうとして、鞄を抱きしめるようにぎゅうっと身体を縮こまらせる。
が、そこで動いたのはレンだけではなかった。
「レン!!」
服の袖を引かれる感覚。
ハッとして閉じていた目を開けると、そこには焦った顔のファルがいた。
彼が自分を助けようと袖を掴んだのだと分かる。
だが、レンとファルはそう身長も変わらず、なんならファルの方が華奢だ。落下してゆくレンの体重を支えられるだけの筋力などあるはずもない。
「ファ……」
腕を離せ、という言葉が声になる前に、二人はもつれ合うようにして地面を転がり落ちたのだった。
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