八話 幼蝶は終わりを見る3
「……遅いな」
ルークの言葉に、レンはグラスを持つ手を止めた。
そして、そのグラスをテーブルへ雑に置くと、頭を抱えた。
「ああ、もう! 気にしないようにしてたのに!!」
「す、すまん……」
そう。もうファルとニクスが消えてから三十分ほど。トイレにしてはあまりに長い。
これは先程感じた「嫌な予感」があたったのだろうかと、不安で仕方なくなる。
「俺、見てくる」
「あっ、おい……」
「ルークはここにいてくれ。入れ違いになるかもしれないし」
もしかすると、誰かと会って話し込んでいるだけなのかもしれない。それか、トイレが異様に混んでいるとか――。
夜も近い今の時間帯的にも、二人の性格的にも、あまり有り得そうな理由ではなかったが。
「とりあえず、行ってくるから」
レンはルークの返事も待たずに、小走りで廊下へと出る。
「はぁ、オレ独り残されんのかよ……」
やれやれと肩を竦めたルークのぼやきは、誰の耳にも届かなかった。
***
目次