幕間 4
もう全てが終わってしまった。
怒りを隠しきれぬような父を見た時、そう思った。
兄や姉のように家の自慢になりたかった。そのためには手段など選べなかった。
だって、僕は何の才も無い凡人だから。
真っ当な手段で、選ばれるはずもないから。
僕は――
教師からの軽い聞き取りの後、父と共に馬車へと乗ってアカデミーを後にする。
もう二度と、この門をくぐることはないかもしれないな、とぼんやり思った。
だがそれも全て、どうでもよかった。
家の顔に泥を塗ってしまったのだ。
これ以上の罪はない。
「――ニクス」
その時、ずっと黙って俯いていた父が口を開いた。
「……はい」
膝の上に置いていた手が震えた。
怖かった。
出来損ないの息子に、父が何と言うのか。
「…………すまなかった」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
「何故、父さんが……謝るのですか」
「お前を追い込んだのは、私達だろう」
不意に顔を上げた父と目が合った。その瞳は、不自然なほどに凪いでいる。
「お前は、私達の期待に応えようとしていた。違うか……?」
「――だったら、何だって言うんですか」
気が付くと、自分でも驚くほど冷たい声が出ていた。
父は自分に寄り添おうとしてくれているのだと、それは分かっていた。しかし、胸の中で燻った気持ちは抑えきれずに、叫びとなって飛び出す。
「そうですよ!! 僕は父さんたちに恥じない結果を出したかった! でも、僕は無理なんだ! だから……!!」
叫びと共に涙が滲む。
それが零れてしまう前に、袖口でグイッと拭った。
「……でも、もう終わりだ」
魔導具の損壊程度で退学にならないのは分かっている。でも、問題行動を起こす人物だというレッテルは貼られ、それは今後の人生にも響くだろう。
つまり、兄や姉のような輝かしい人生を歩むことはもう――
どうしようもない徒労感に、ぐったりと馬車の座席に身体をあずけた。
期待通りの息子にはもうなれない。きっと遠からず見限られるだろう。
そうなれば、どうやって生きていけば良いのか。
でももう、希望も何も浮かばない――。
「ニクス」
「もういいです。もういい。だから……」
「近々仕事で海の方へと行くんだが、一緒に来ないか?」
「…………え?」
のろのろと身体を起こす。
目の前に座る父は、とても優しい顔をしていた。
「なんで……」
「まだお前が小さい頃の事だが……、お前は海を見るのが好きだっただろう? 気分転換になる」
「…………なんで」
馬鹿みたいにもう一度同じ問いを零す。
けれど父はいっそう目を細めて、手をこちらに伸ばしてくる。
思わず、ぎゅっと目を瞑ると、頭の上にぽんとその手が置かれる感触がした。
「お前の言う通り、『もういい』んだ。だから、暫く何も考えずにゆっくりしなさい」
そのまま父が頭を撫でてくる。
「…………、」
つい先程我慢したはずの涙が零れ落ちたのは、そのすぐ後の事だった。
***
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