先に巣立った彼は咲わない娘に魅せられて6
「今日はありがとうね」
すっかり空が赤く染まった頃、すっかりくたびれた様子のルフィアに、ルークは苦笑いしながらそう言った。
「……いえ」
カフェでの休憩後、また様々な店を回り、最終的にルークが選んだのは表面をキャラメリゼしたデニッシュ――ルフィアの好物だった。
「良かったんですか、わたしの一存で決めてしまって」
「いいのいいの。一緒に町を回れるだけで楽しかったから」
「なら、いいんですけど」
「……ありゃ」
ついに馬脚を現したと、またルフィアが怒るのかと思っていたルークは不思議そうに首を傾げる。
「やけに素直だね? ――は! ついにオレの魅力に……」
「違います!! もう!」
食い気味に否定したルフィアだが、少し俯いて溜息混じりに呟く。
「そうじゃなくて。わたし、ずっとこの町に住んでるのに、碌に案内も出来なかったから……」
ルークは彼女の言葉に困った顔をする。
たしかに、今日一日の殆どが自分主導で進んでいた自覚はあったからだ。とはいえ、なんだかんだ文句を言いつつ隣をついてきてくれるだけで、本当に楽しかったので、なおのこと返答に困る。
「じゃあ、それは次の機会にしようよ。今度はルフィアちゃんのエスコートを受けるから」
「は……」
「じゃあ、今日はそろそろこの辺でね」
ぽかんとするルフィアに、にっこりと微笑みかける。
そして、そうだったとルークは鞄の中から、リボンのかかった包みを取り出す。それを手早く解くと、中から出てきたくすんだピンク色のショールをルフィアの肩にかけた。
「夜は冷えるから、風邪を引かないようにね」
そして、仕上げとばかりに前に手繰り寄せたショールに、黄色いヒヤシンスとカスミソウの形をしたブローチを留める。
「それじゃあね」
ルークは軽く手を振りながらルフィアに背を向ける。
「――ちょ、『次の機会』なんて無いですからね!?」
「あははっ」
我に返ったらしく声を上げた彼女に、ルークは振り返らずに笑った。
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