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先に巣立った彼は咲わない娘に魅せられて7

 

「……今日も来ない」

 ルフィアは花屋のカウンターに肘をついて、入り口を見つめていた。
 あの「デート」の日から、ぱったりと彼が姿を見せることが無くなってしまったのだ。

「……いやいや、別に待ってないから」

 あの日選んだ土産がどうなったのか気になるだけ――。そう言い訳してみるが、ルフィアの手は胸に留められた黄色いヒヤシンスとカスミソウのブローチに向かう。

「…………はぁ」

 首をぷるぷると振って、雑念を払おうとするが上手くいかない。常連客にも、「上の空だね」とからかわれて何も返せなかった。
 ルフィアは指を握ったり開いたりと手持ち無沙汰にしながら、何故だか頭に浮かぶ男について物思う。
 自分はお世辞にも愛想が良いとは言い難い態度だった。出会ったばかりの彼があまりに怪しく、ルフィアにとっても大事な身内となったニクスを狙う不届き者だと思ったからだ。
 その誤解が解けた後も、急に態度を変える気になれず、ずっとツンケンしていたような記憶ばかり浮かぶ。

 なのにあの人はどうして、わたしを構ってばかりいたのだろう。
 かわいくない態度の自分に毎回あんな――。

 その時、店の入り口に人影が見えて、ルフィアはパッと顔を上げた。

「――あ……、ニクスさん」
「こんにちは、ルフィアちゃん」

 ぺこりと頭を下げると、ニクスは何故か困った顔をする。

「あー……。ごめんね、僕で」
「な、何がですか……?」

 一瞬ドキリとした内心を押し隠して、ルフィアは平静を装う。

「それより、どうしたんですか?」

 ニクスがここに来るのは珍しい。

「ちょっとね。報告に」
「報告?」

 まさか、と思って訊ねると、ニクスはちょっぴり恥ずかしそうに微笑みながら頷いた。

「うん。詩集を出すことにしたんだ。ルークとツェントの二人から言われたら、さすがに断りきれなくて」

 不承不承、というような口振りで言っているが、その表情も口調も、とても嬉しそうだった。

「そうですか……、おめでとうございます……!」
「ありがとう」

 彼のその表情にルフィアも嬉しくなる。
 お祝いは何がいいだろう。とびっきりのブーケを作ろうか……。
 そんなことをうきうきと考えていると、ニクスは一転して何か言いづらそうに口を開いた。

「――聞か、ないの?」
「何がですか?」
「ルークのこと」

 ルフィアはきゅっと唇を引き結ぶ。そして、にっこりと笑顔を浮かべた。

「どうしてですか? わたしとあの人は別にお友達でも何でもないのに」
「……そっか、ならいいんだ」

 ニクスは悲しげに笑って、その話を打ち切った。
 その後は少し世間話と、ニクスのお祝いについて話をして、彼は花屋を後にする。
 再び一人きりになったルフィアは、ぎゅっとブローチを握った。

「なんだ……」

 やっぱり本気じゃなかったのだ。
 かわいくない態度の自分で遊んでいただけだった。

「っ……」

 ルフィアはぎゅっと目を閉じて、一時的な感情が去ってゆくのを待つ。

 涙なんて、決して流してはやらない。
 悲しくなんかないのだから。

 

 

***

 

 

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