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2023-01-01から1年間の記事一覧

七話 幼蝶は希望を掬い上げ3

「んー……。やっぱりもっと奥まで行かなきゃダメだったかなぁ……」 夕刻になり、鞄に詰め込んだ魔石たちを見てレンは肩を落とした。 どれも悪くはないのだが、どうもピンとこない。 それはファルも同じだったのか、同じく鞄を覗き込んで、なんともいえない表情…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ2

「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」 ルークはよいしょ、と言いながらレンたちの傍に膝をついた。 「あー……、まあ、色々あって?」 な、とレンがファルの方を向くと、ファルも若干気まずげな顔をしてこくりと頷く。 「ふぅん? 前見た時は随分な別れ方し…

七話 幼蝶は希望を掬い上げ1

「なあ、レン。これはどうだ?」 レンはファルが見せてきた魔石を受け取り、首を捻る。 「あー……、色は良いんだけどなぁ、ちょっと…ちっちゃくね?」「やっぱりそう思うか……」 しょんぼりするファルに、レンは慌てて言葉を付け加える。 「あ、でも一応持って…

幕間 1

――お兄様はアカデミーの通常課程を主席で終えられたのですって。将来はきっと、国の中枢でご活躍になるのでしょうね。 はい、僕も兄を尊敬しています。 ――魔法省の長官に最年少で就任した才女、って君の姉君らしいね。どんなお人なんだい? 姉は素晴らしい才…

六話 幼蝶は過去を語る4

「――まてまてまて! ちょっと待て、僕はそういうつもりでこの話したんじゃないぞ!?」 立ち去ろうと腰を上げかけていたレンを、慌てたファルが肩を掴んで制止してきた。 こんなにも慌てた様子の彼は初めて見る。 レンはぽかんとして、動きを止めた。 「で、…

六話 幼蝶は過去を語る3

「――その顔から察するに、もう分かってるんだと思うけど」 しばらく無言で歩いた後、ファルがぽつりと言った。 レンは彼にそれ以上を彼に言わせはせず、先んじて頷く。 「ああ。あそこは……他国民によって、研究の犠牲となった蝶の民たちの記念碑、だろ」 世…

六話 幼蝶は過去を語る2

明け方にレンがアカデミーへと侵入した経路を、今度は二人で内側から越える。 寮の部屋を出た後のファルはずっと無口で、レンはひたすら彼の後をついて歩いていた。 途中で花を買い、彼はそのまま王都の中心街を外れていく。 この先にあるのは――、と思い出し…

六話 幼蝶は過去を語る1

「ファル、あのさ……」「うるさい、だまれ」「まだ何も言ってないし」 さっきからずっとこんな様子のファルに、レンは肩を竦めた。 いつもの冷たい言葉も、真っ赤な顔を両手で隠した状態では、さほど険を感じないから不思議だ。 レンは、起きてからというもの…

五話 幼蝶の心は彼方に5

「ファル……!」 眠りながら泣くファルを見て、レンは思わず声をかけた。 上掛けをぎゅうっと握る手に、己の手を重ねる。 「ファル、起きろ!」 何度か声をかけていると、ようやく眠りから覚めることが出来たのか、彼がうっすら目を開ける。 「…………レ、ン?」…

五話 幼蝶の心は彼方に4

「……よいせっ」 夜も明け切らぬ頃。 こっそりとアカデミーに戻ったレンは、敷地の裏手に回り込み、塀が低くなっている場所からどうにか帰還に成功した。 辺りに人がいないのを確認しつつ寮に戻り、抜き足差し足で自室へと向かう。 「よし!」 誰にもバレずに…

五話 幼蝶の心は彼方に3

「……ふぅ」 ラテロが帰ったあと、レンは自室に一人でぼんやりしていた。 飲んだ茶の効能か、身体がぽかぽかとして眠る気にならない。 「……そうだ」 しばらく眠れそうにない。そう思ったレンは、ふと幼き日の事を思い出した。今日のように眠れなかった日に、…