2023-01-01から1年間の記事一覧
「んー……。やっぱりもっと奥まで行かなきゃダメだったかなぁ……」 夕刻になり、鞄に詰め込んだ魔石たちを見てレンは肩を落とした。 どれも悪くはないのだが、どうもピンとこない。 それはファルも同じだったのか、同じく鞄を覗き込んで、なんともいえない表情…
「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」 ルークはよいしょ、と言いながらレンたちの傍に膝をついた。 「あー……、まあ、色々あって?」 な、とレンがファルの方を向くと、ファルも若干気まずげな顔をしてこくりと頷く。 「ふぅん? 前見た時は随分な別れ方し…
「なあ、レン。これはどうだ?」 レンはファルが見せてきた魔石を受け取り、首を捻る。 「あー……、色は良いんだけどなぁ、ちょっと…ちっちゃくね?」「やっぱりそう思うか……」 しょんぼりするファルに、レンは慌てて言葉を付け加える。 「あ、でも一応持って…
――お兄様はアカデミーの通常課程を主席で終えられたのですって。将来はきっと、国の中枢でご活躍になるのでしょうね。 はい、僕も兄を尊敬しています。 ――魔法省の長官に最年少で就任した才女、って君の姉君らしいね。どんなお人なんだい? 姉は素晴らしい才…
「――まてまてまて! ちょっと待て、僕はそういうつもりでこの話したんじゃないぞ!?」 立ち去ろうと腰を上げかけていたレンを、慌てたファルが肩を掴んで制止してきた。 こんなにも慌てた様子の彼は初めて見る。 レンはぽかんとして、動きを止めた。 「で、…
「――その顔から察するに、もう分かってるんだと思うけど」 しばらく無言で歩いた後、ファルがぽつりと言った。 レンは彼にそれ以上を彼に言わせはせず、先んじて頷く。 「ああ。あそこは……他国民によって、研究の犠牲となった蝶の民たちの記念碑、だろ」 世…
明け方にレンがアカデミーへと侵入した経路を、今度は二人で内側から越える。 寮の部屋を出た後のファルはずっと無口で、レンはひたすら彼の後をついて歩いていた。 途中で花を買い、彼はそのまま王都の中心街を外れていく。 この先にあるのは――、と思い出し…
「ファル、あのさ……」「うるさい、だまれ」「まだ何も言ってないし」 さっきからずっとこんな様子のファルに、レンは肩を竦めた。 いつもの冷たい言葉も、真っ赤な顔を両手で隠した状態では、さほど険を感じないから不思議だ。 レンは、起きてからというもの…
「ファル……!」 眠りながら泣くファルを見て、レンは思わず声をかけた。 上掛けをぎゅうっと握る手に、己の手を重ねる。 「ファル、起きろ!」 何度か声をかけていると、ようやく眠りから覚めることが出来たのか、彼がうっすら目を開ける。 「…………レ、ン?」…
「……よいせっ」 夜も明け切らぬ頃。 こっそりとアカデミーに戻ったレンは、敷地の裏手に回り込み、塀が低くなっている場所からどうにか帰還に成功した。 辺りに人がいないのを確認しつつ寮に戻り、抜き足差し足で自室へと向かう。 「よし!」 誰にもバレずに…
「……ふぅ」 ラテロが帰ったあと、レンは自室に一人でぼんやりしていた。 飲んだ茶の効能か、身体がぽかぽかとして眠る気にならない。 「……そうだ」 しばらく眠れそうにない。そう思ったレンは、ふと幼き日の事を思い出した。今日のように眠れなかった日に、…