BL小説-未羽化(研究者×蝶の民)
「んー……。やっぱりもっと奥まで行かなきゃダメだったかなぁ……」 夕刻になり、鞄に詰め込んだ魔石たちを見てレンは肩を落とした。 どれも悪くはないのだが、どうもピンとこない。 それはファルも同じだったのか、同じく鞄を覗き込んで、なんともいえない表情…
「いつの間にそんな仲良くなったんだ?」 ルークはよいしょ、と言いながらレンたちの傍に膝をついた。 「あー……、まあ、色々あって?」 な、とレンがファルの方を向くと、ファルも若干気まずげな顔をしてこくりと頷く。 「ふぅん? 前見た時は随分な別れ方し…
「なあ、レン。これはどうだ?」 レンはファルが見せてきた魔石を受け取り、首を捻る。 「あー……、色は良いんだけどなぁ、ちょっと…ちっちゃくね?」「やっぱりそう思うか……」 しょんぼりするファルに、レンは慌てて言葉を付け加える。 「あ、でも一応持って…
――お兄様はアカデミーの通常課程を主席で終えられたのですって。将来はきっと、国の中枢でご活躍になるのでしょうね。 はい、僕も兄を尊敬しています。 ――魔法省の長官に最年少で就任した才女、って君の姉君らしいね。どんなお人なんだい? 姉は素晴らしい才…
「――まてまてまて! ちょっと待て、僕はそういうつもりでこの話したんじゃないぞ!?」 立ち去ろうと腰を上げかけていたレンを、慌てたファルが肩を掴んで制止してきた。 こんなにも慌てた様子の彼は初めて見る。 レンはぽかんとして、動きを止めた。 「で、…
「――その顔から察するに、もう分かってるんだと思うけど」 しばらく無言で歩いた後、ファルがぽつりと言った。 レンは彼にそれ以上を彼に言わせはせず、先んじて頷く。 「ああ。あそこは……他国民によって、研究の犠牲となった蝶の民たちの記念碑、だろ」 世…
明け方にレンがアカデミーへと侵入した経路を、今度は二人で内側から越える。 寮の部屋を出た後のファルはずっと無口で、レンはひたすら彼の後をついて歩いていた。 途中で花を買い、彼はそのまま王都の中心街を外れていく。 この先にあるのは――、と思い出し…
「ファル、あのさ……」「うるさい、だまれ」「まだ何も言ってないし」 さっきからずっとこんな様子のファルに、レンは肩を竦めた。 いつもの冷たい言葉も、真っ赤な顔を両手で隠した状態では、さほど険を感じないから不思議だ。 レンは、起きてからというもの…
「ファル……!」 眠りながら泣くファルを見て、レンは思わず声をかけた。 上掛けをぎゅうっと握る手に、己の手を重ねる。 「ファル、起きろ!」 何度か声をかけていると、ようやく眠りから覚めることが出来たのか、彼がうっすら目を開ける。 「…………レ、ン?」…
「……よいせっ」 夜も明け切らぬ頃。 こっそりとアカデミーに戻ったレンは、敷地の裏手に回り込み、塀が低くなっている場所からどうにか帰還に成功した。 辺りに人がいないのを確認しつつ寮に戻り、抜き足差し足で自室へと向かう。 「よし!」 誰にもバレずに…
「……ふぅ」 ラテロが帰ったあと、レンは自室に一人でぼんやりしていた。 飲んだ茶の効能か、身体がぽかぽかとして眠る気にならない。 「……そうだ」 しばらく眠れそうにない。そう思ったレンは、ふと幼き日の事を思い出した。今日のように眠れなかった日に、…
家に入ると、懐かしい実家の匂いがした。 ラテロに無言のまま腕を引かれ、キッチンの方へ連れて行かれる。彼はダイニングテーブルにレンを座らせると、ヤカンに水道水を入れて火にかけた。 それを沸かしている間に、持参していた鞄から茶葉の缶と何かの粉末…
「……ラテロ兄さん」 のろのろと顔を上げた先にいたのは、家の隣に住む――レンが「羽化」に感銘を受けるきっかけとなった男であった。 かつては「おにいちゃん」と呼んでいた青年も今や三十代。おにいさんと言える歳なのかは年々わからなくなってきているが、…
ずかずかと当て所なく歩き回ったレンは、気が付くと王都の商業地区にいた。 ファルから今は少しでも離れたい。その一心で歩いていたが、街は夕暮れに染まっていて、その薄暗さがより一層気分を滅入らせる。 アカデミーから出て来てはみたものの、もう幾許も…
「だーかーらー! ほら、こう、光がバババーってなったら、カッコいいだろ!?」「カッコよさで何か変わるのか?」「変わるだろ! ほら……、その、……カッコいい!!」「……」 呆れ果てたような視線を向けてくるファルに、レンはぐっと押し黙った。 件の爆発事…
「ごめん!!」 レンは医務室のベッドの上で、ファルに頭を下げていた。 正座に頭はシーツをこすり平身低頭――、要するに土下座である。 頬に湿布、頭に包帯、身体の所々にも傷を作ったファルは、そんなレンに大きな溜息をついた。 「もういい。事故だろ」 レ…
レンがファイルから取り出した紙は三枚。 その全てを重ねて床に置いた。 「三枚も使うのか……?」 ファルが不思議そうにするのも無理はない。一つの魔法には一つの魔法陣。それが一般的な考えだ。 しかし魔法の専門家を両親に持つレンは、それが必ずしも最適…
互いに何をしているのかも分からないまま、一週間。 制作した魔導具に組み込む魔法陣をそれぞれ持参し、使用許可をとった演習場に集まっていた。 演習場というのは、主に魔法を練習するための場所だ。中で不測の事態が起こっても外部に被害が出ないようにす…
――それぞれでやって、後で合わせればいいだろ。 協力する気など毛頭なさそうなファルの提案を、レンも「いがみ合いながらやるよりはマシか」と承諾した。 本番である成果発表会は約一ヶ月後。とりあえず一週間後にそれぞれの途中経過を見せるということで、…
「――春の課題制作は、ペアでの魔導具制作とします」 もやもやを抱えたまま次の日を迎えたレンは、明くる日の朝一番の授業で、教師のそんな言葉に目を瞬かせた。 アカデミーでは春と秋に一回ずつ、外部の人間を招いての成果発表会がある。 上級課程まで進んだ…
結局、ファルと話すこともなく夕食を終え、レンは自室に戻った。 やっぱり謝るべきか。 もやもやぐるぐると考え続け、あの後の授業も殆ど記憶に残っていない有様だ。 部屋に戻ってみれば、まだ風呂から戻っていないのか、まだそこにファルの姿はない。レンは…
学園生活がはじまり、はじめは緊張していたレンだったが、クラスメイト達ともあっという間に打ち解けていた。 だが、アカデミーに到着した初日に、気まずい初対面となった同室者ファルだけは別だ。 というより、そもそも彼はレンだけではなく、誰とも必要最…
レンの父母は魔法学者だった。 空気中に漂う「魔素(まそ)」と呼ばれるものを力に変える技術、それが魔法だ。 蝶の民が数多く暮らすその国は、非常に魔素が濃い土地として有名で、レンが三歳になるのを契機に移り住んだのだ。レンを一所で育てるため、それで…
「あれ、レンくん。たった数ヶ月なのに、随分大きくなったね」 突然話しかけてきた見知らぬ若い男に当時五歳になったばかりだったレンは、目を瞬かせた。隣を歩いていた母のスカートをきゅっと掴む。 「あらこの子ったら……。ほら、わからない? おにいちゃん…
毎週水曜に(できるだけ)更新中! 好奇心旺盛な少年が、荒んだ少年の心をとかす、ボーイズラブファンタジー! あらすじ とある大陸の辺境に、高い山と海とに囲まれた王国がある。 その地で生まれ育った人々は、幼少期から成人へと変化する中で、幼虫が蝶に…